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子育て・専業主婦は「無職」と呼ばれる国で生きること③

娘の反乱

夏子さんが前に前に目を向けている間に娘の明菜ちゃんに異変が。ですが、気づくタイミングが遅すぎたのかもしれない。年も押し迫った日の夕方、明菜ちゃんは、仕事帰りの父親を見かけたのだ。作業服に白い粉汚れの恰好。疲れ切ったように電車に乗っていた。そのことを母親に言えずに数カ月が過ぎていた。明菜ちゃんは「ママは何もわかっていない」と思った。

夏子さんや明菜ちゃんを捨てたはずの父親が、惨めな姿で車両の外れに倒れ込むように座っている。その姿は明菜ちゃんを傷つけてしまった。夏子さんは、無口になることはあるが、それも成長の過程だとあまり明菜ちゃんの様子を気にしなかった。

そして、小学校3年の夏、明菜ちゃんは笑わなくなった。子どもの鬱の症状が出始め、何もしない、面倒がる状態に。

ママが働くときの子どもチェック

夏子さんは明菜ちゃんを迷わずに心療内科で受診させました。実は、夏子さん自身も、誰もいなくなっていた夫の事務所を見た後に、精神のバランスが保たれず、メランコリック症候群では?という診断を受けていた。人の心は年齢に関係なく、「壊れる」ことを知っていた。それでも、娘の症状に気づけなかった。申し訳ない思いでいっぱいだった。

カウンセラーの方から、娘が父親の「今」を目撃したこと、そのことが心を締め付けていたことを知った。明菜ちゃんは、父親のことをママと共有できたことで、心の安定を取り戻した。二人でいろいろな話をした、パパを見て「悲しい」と思ったこと、ママががんばっているのに、パパは駄目な人だ、と思ったこと。ママに話したら、どういう顔になるだろうかと思うと不安だったことなど。

自分の力で生きる

夏子さんも、弁護士事務所の事務と経理の仕事が見つかり、秋口から勤務することになった。それでも、朝のパートは辞めなかった。スーパーの品出しの仕事を7:30~9:00、その後、弁護士事務所で10:00~17:00までの勤務。フルタイムだ。

土日だけはしっかりと休みを取った。いっぱい話す日にした。明菜ちゃんは、一度ママの働く弁護士事務所を見てみたいと言ったそうだ。そこで所長弁護士に相談したところ、気持ちよくOKしていただき、学校帰りに事務所に立ち寄ることになった。

その日の帰り、明菜ちゃんは「ママって、頭がいいんだね。パパは、ママは家にいるのが、仕事だって言っていたけれど。ママは、なんでもできるんだよね。それにパパの事務所より、カッコいいよね。きれいだし」とニッコリ。

娘が自分の生き方を見ている、そう感じた。「私は、自分の力で、自分を生きて行かなくては」と思った。その日は、明菜ちゃんの手がいつもよりも強く自分の手を握ってくれていた。明菜ちゃんもまた、これからの生活への決意をしたにちがいない。そう夏子さんは感じたそうだ。

まもなくして、夏子さんは離婚に同意することを告げようと決めた。夫を探し始めた。

母娘の決意

夫はすぐに見つかった。一緒に暮らしているはずの女性とは別れて、一人で住んでいた。さすがに弁護士事務所に勤務していると、対処方法は心得ている。書面で連絡し、弁護士同席のもと、離婚交渉を進めた。結局、夫と会ったのは1回だけだった。夫は、謝っていた。何度も何度も頭を下げて。既に、怒りなど、何もない。普通に毎日を過ごしたい。重たい荷物を下ろしたい、ただそれだけだった。

元夫は、二人の生活を気遣っていたが、夏子さんがフルタイムで働いていることをきくと、驚いたように「君でも、働けるの?」と言ったそうだ。すかさず、弁護士が「当事務所にとって、欠かすことのできない戦力ですよ」と言ってくれた。元夫は肩の力を落としながら、「悪かった。申し訳ない」と頭を下げた。何を詫びてくれているのだろう?これで、もう終わりにしよう。夏子さんは決意した。

養育費は毎月支払ってもらうことになり、娘との面会の権利は認めるが、時期は相談の上ということになった。まだ、縁がきれたわけではない、だからこそ、元夫にもまっすぐに生きて欲しいと思った。

明菜ちゃんにはありのままを話した。「私が中学に入るときに会いたいな」とポツンと彼女は言った。

母と共に娘も決意をした。生きること、自分が納得できる生き方をすることを。

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