子育て・専業主婦は「無職」と呼ばれる国で生きること 【最終回】
新しい仕事へのチャンス
所長弁護士から、「ホームページを作ることには興味ありますか?」と訊かれた。もちろん興味はある。だが、「ホームページを作る」となると、答えは臆病になる。それでも、「興味はありますが、私、まるっきり文系女子(笑)なので」と答えた。すると、「来月からサイトを構築する会社と契約しようと思っています。その会社とのやりとりを担当してもらえますか?その会社から言われたのですが、この事務所の仕事の仕方をよく理解している方が担当することが一番、良いホームページができると。なので、経理から、法務事務、総務まですべてをお願いしている、あなたにお願いしたいのです。もちろん業務の種類が増えるので、お給料もその分を上乗せします。やってもらえますか?」
夏子さんは、唇にギュッと力を込めて、「はい、やらせてください!」と返事をしたそうだ。うれしさとこのチャンスをくださった所長弁護士への感謝の気持ちで心がいっぱいになった。新しい仕事に挑むチャンスだ!!
人生で抱える悩みは重たさが変わっていく
所長弁護士からのうれしい依頼を受けてから、1週間ほどでホームページ構築の会社との打合せが始まった。主婦時代のネット検索生活がここで役立つとは思わなかった。
相手からの質問にもスルスルと答えている自分に驚いた。まるでチームの責任者のようではないか。笑いがこみ上げてくるほど、スルスルとこの事務所のことが話せる。
さらに、夫からの突然の離婚申し入れで悩んだときに、お悩み相談をネットでさんざん検索したので、ある程度、法律事務所のホームページのイメージをすることができた。ホームページ構築の担当者から、利用者の目線があると褒められた。「誰かが人生で起きる様々な経験は無駄にはならない、って言っていたけれど、本当だ」と驚いた。その話を娘にすると「ママは強くなったね。この頃毎日、コロコロ笑ってるものね」と言われた。確かにその通りだ。コロコロ笑っている。それ以上に娘から「強くなった」と言われること自体にビックリした。明菜ちゃんは確実に大人に向かって成長しているのだ。これも誰かに言われたことだが、「今は子どもを抱えて大変だ。と思っていても、子どもは成長する」というのは本当のことだ。
人生で抱える悩みは、重たさを次第に変えていくものだ、と悟った。
人生初!役職付き名刺のビジネスプロポーズ
今、吉川夏子さんは離婚してもそのまま「吉川」を名乗っている。それには、彼女の覚悟が秘められている。旧姓に戻ることもできた。だが、実家に戻ることはしないと決めたのだ。旧姓に戻ることは、結婚前の背負うものを持たない自分に戻ってしまいそうで、選ぶことができなかった。なんでもよい名前を選べるのなら、本当は吉川以外の姓を名乗りたかったくらいだ。ここから人生を変えたい、ただその想いで「new吉川ファミリーにしよう」と明菜ちゃんと決めたそうだ。おそらく明菜ちゃんの気持ちの奥には、中学生になったら会う父親への優しい気持ちが込められているのだろう。
今の夏子さんは、その娘の気持ちを受け入れる余裕があった。
弁護士事務所で大きな案件が完了した打ち上げが行われた。明菜ちゃんを連れて参加した。いつでも、所長弁護士が気づかいをしてくれ、明菜ちゃんも事務所の職員に可愛がられるようになった。
その打ち上げで、名刺の箱を渡された。人生で2度目の名刺。だが、その名刺には、「総務管理責任者」という役職名が。「この役職でお仕事をこれからしていただけませんか?」ドラマのように素敵なお仕事のビジネスプロポーズだった。もちろん答えは「YES」。
吉川夏子・明菜さんは、新しい家族として、新しい働き方と生き方をはじめました。夏子さんから、メッセージをいただきました。
「誰かの言葉は何もない平穏な時は気にもなりません。ですが、ひとたび嵐が押し寄せると、本当だ、と実感することがいっぱいあり、救われます。ただし、それを実感できるのは、前を見て、動き始めた人だけです」
今、New吉川(仮)ファミリーは、5分咲きだと夏子さんは言っていました。「きっと花咲く」ことでしょう。「なりたい自分」=きっと思たような花を咲かせる、ことでしょう。