第2回テーマ:子育て・専業主婦は「無職」と呼ばれる国で生きること①
穏やかな生活の中に「離婚」の二文字が。結婚して10年、贅沢はしていないが穏やかに子どもと暮らす生活だった。吉川夏子(仮)さんは「無職じゃ、前に進めない」と立ち上がった。
年の差婚の幸せ
吉川夏子(仮)さん37歳。7歳になる明菜ちゃんのママ。ご主人は税理士事務所を開業している税理士さん。12年前、勤務先の契約税理士としてやってきたご主人と仕事を通して、親しくなり、寿退社となった。誰からみても、ラッキーな結婚だった。夫とは10歳も年が離れていることもあり、束縛されない結婚生活だった。
ご主人は35歳で税理士になり、都内で事務所を開業した。7年前くらいに事務員さんも雇用できるくらいの仕事になった。ただ、クライアントさんと付き合うのがあまり得意ではない主人は疲れているようにも見えた。夏子さんは、今、思い出すとそのことがすべての始まりだったように感じるそうだ。
離婚はある日突然に
2015年11月10日、13回目の結婚記念日に「離婚して欲しい」と切り出された。この13年間、一度も結婚記念日を祝ったことなどもない。それでも、何も感じなかった。夫は毎月、無理のない生活費を渡してくれていた。そのお金で、娘と二人の生活を穏やかに過ごすことができた。何も不満なんてなかった。結婚記念日など気にすることもなかった。
ただ、娘は、運動会にもピアノの発表会にも顔を出してはくれない父親を寂しがっていたようだが、「ママがいつも一緒だから大丈夫。パパは忙しいのだから」と言ってくれていた。夏子さんは、その言葉にも「こういう家庭もあるわよ」と内心では、軽く考えていたそうだ。それなりに毎月の「へそくり」もできる状態だった。父親、夫の不在感を強く意識することはなかった。
夫の異変に気づけなかった私
異変は2015年8月ごろから始まった。夫は3日に一度くらいしか、帰宅しなくなった。しかも戻ってくるといつも洋服から甘いクリームのような臭いがしていた。それでも、夏子さんは、「どうした?」とは訊いたが、「忙しいんだ」と静かに答える夫に、何も深くは聞こうとはしなかった。「ウチの夫は不愛想だけれど、家族を困らせるようなことはしない堅い人だから」と思っていた。
だが、その月の月末、生活費は今までの半分になった。夏子さんは「事務所で何かあったの?生活費はなんとかできるから、心配しないで」と励ますつもりで夫に伝えた。
夫はその翌日から家には戻って来なくなった。そして、11月10日を迎えることに。
何年かぶりに夫の税理士事務所に行ってみたが、既に引き払われていた。管理事務所に問い合わせたところ、「奥様のご実家の方で開業することになった」と聞いているとのこと。
心臓の鼓動がけたたましくなり始め、呼吸が荒くなり、ビルの壁にもたれるようにして立っていた。夏子さんは、今でも、そのときの「鼓動のけたたましさ」が忘れられないそうだ。
ドラマがはじまった!
夫は自分と娘を置き去りにして、音信不通に。ドラマだ・・・。ドラマのような出来事がこんなに簡単に自分にやってくるんだ。何もかもが理解できなかった。娘に事実を伝えると「パパは、私やママがいなくてもよかたんだね」と言ったきり、涙も見せなかった。「他
のお家とは違い過ぎるから、よくわからなかった」と後で明菜ちゃんは言っていたらしい。
離婚届けは出さずに、そのままにしていた。謝罪のつもりなのか、賃貸マンションの家賃だけは夫が毎月支払ってくれていた。そのせいか、心の整理が進まず、夫と連絡もとれないままに6カ月が過ぎた。「へそくり」を切り崩しながら来たが、さすが心もとなくなっ
てきた。それでも、夫と離婚交渉になれば娘の養育費や浮気の慰謝料は入ってくるから、と強気で思い込んでいたところもあった。夫の居場所さえ、わからないのに・・・。
夫から連絡があるまでは待っていよう、焦ると損をする、と思っていたそうだ。だが、現実的には、働く必要が迫っていることは事実だった。前から、月末3日間の経理のお手伝いを近所の会社でしていた。だが、それではいくらなんでも足りない。やっと求人サイトを検索してみた。
無職=今、必要な仕事ができない人
人手不足のおかげで、何社かの面談にこぎつけた。ところが、どの面談でも、「もう10年近く『無職』だったということですね。PCは使えますか?」と質問される。答えは1つだ。「入力はできます。ただ、家ではPCを使っていないので、難しいことはできません」と。そして会社側の回答は「そうですか。申し訳ないのですが、今回は即戦力になれる方をお願いしたいと思っておりまして…残念ですが・・・。」と決まっていた。
「無職が悪いっていうの?!主婦なのだから仕方がないじゃない!あなたの奥さんだって、無職じゃないの?」心の中で叫びながら、「無職」= 今必要な仕事ができない、という意味なんだ、と肩を落としていました。